足音の主はお母さんで
扉を開け、部屋の中に入っていった。

『…あれ?
そこに誰かいませんでしたか?』

『えっ?誰もいなかったわよ?
よし、練習の続きをするわよ
ヨウ君!』

(あの男の子が “ヨウ君”…)

もっとヨウ君のピアノを
聴いていたかったけれど、

もう夕日が沈みかけ
窓の外が薄暗くなっていたから

女の人に言われたとおり
また秘密の小さな扉から出て
お屋敷をあとにした。

家に着くまでの帰り道、

ピアノを弾いている
ヨウ君を思い出すだけで
鼓動が早くなって苦しくて

(……また “ヨウ君”に会えるかな)

私はこの日に出逢った

“ピアノの王子様”

に恋をしたんだ。


【星川さんの過去編end】