...




「じゃあ、行くか」


「うん」


「凪咲ちゃん気を付けてね。こいつに何かされたら連絡するのよ。怪我した時もすぐに駆けつけるから!」




その日の昼過ぎ


荷物をまとめた工藤と黒瀬の二人は例の隠れ家に移ろうとしていた。



「俺もしばらくは帰ってこないから家のこと頼むな」


「おっけーおっけー任せときなさい。それよりヒロ、ちゃんと凪咲ちゃんを守ってあげなよ?でなきゃ今後一切家に入れないんだから」


「分かったよ。おっかないな」



工藤は困ったように笑う。


その笑顔を見ながら、真妃はそっと彼を抱きしめた。


工藤は目を丸くする。



「うお」


「ヒロも気を付けてね。事件を追っかけるのもいいけど、自分の身もしっかり守って。いい?」


「…はは、了解。真妃も仕事頑張り過ぎて体壊すなよ。何かあったらすぐに電話しろ。いいな」


「りょーかい」



二人はそれから優しく触れるだけのキスをする。


その幸せそうな風景から、黒瀬は無言で目を逸らした。



警官は嫌い。


大切なものを持っていても、自分はいつだって命を落とす覚悟で事件を追う。


優秀な警官になればなるほど自分の命をおろそかにしては、勝手にいなくなるのだ。



(残された方の気持ちなんてちっとも、何にも、考えてないんだ…)



身勝手で、正義を盾に簡単にどこかへ行ってしまう


きっといつか真妃さんだって一人になる


自分や、ハナの様に



(…警官なんて大っ嫌い)



黒瀬は唇を噛みしめて、そう心の中で呟いた。