...





それから三人は朝食を食べ始める。



工藤の額はまだデコピンの名残が赤みとして色濃く残り、見るからに痛そう。


朝食はとてもおいしく、三人ともぺろりと平らげてしまった。



「…ごちそうさまでした」


「どうだった?凪咲ちゃんのお口にあったかな」


「あ、はい。とってもおいしかったです。ありがとうございました」


「いいえー」



美味しかったと言われた真妃は、頬をピンクにして嬉しそうに笑う。



「ヒロはそんなこと滅多に言ってくれないから嬉しいわあ」


「何だよ、俺だって一緒に食べるときはいつも言うだろ?」


「うそ。食べられればなんでもいいって思ってるくせに。味覚がおかしいのよね。どんなにまずい料理も三ツ星レストランの料理も全部同じ味がするんですって。笑える」


「何だよ。しょうがないだろ、昔っからなんだから。変わりにお前がどんな料理作っても完食してきたじゃんか!」


「良かったところと言えばそこだけよ。こっちがどんなに頑張って美味しいって言ってもらえる料理作ってるかも知らないで」


「悪かったよ。そんなカリカリすんな」




仲良さげに話す二人を見て、完全に外野の黒瀬はやっぱり付き合ってるんだ、とそう確信するのだった。








それから話は、黒瀬の今後の事についてに。




「で、黒瀬のこれからについてだけど、佐久間さんたちと話し合った結果、今日からここに住むことになった」


「え、」


「元の家はあいつらにばれてるし、警備も手薄過ぎる」


「それがいいわ。ここの警備はそこらの施設よりも高いし、安全よ。それが売りで芸能人もたくさん住んでる」


「…学校とかバイトは…」


「しばらくは休んでもらう。黒瀬は受験生だけど、もう推薦で大学は決まってるって聞いたし、事情を話して校長やバイト先からの許可は得た。黒瀬の身を守る為と、他人を巻きこまない為に協力してほしい。どうだ?」



黒瀬はしばらく考え、「分かった」と頷いた。


しかしすぐに「でも」と続ける。



「私がここに居るのは反対」


「?どうして?」


「だって、ここには真妃さんがいる」



工藤を巻き込むのはもう、仕方がない。


昨日襲われたとき顔だって見られただろう。


だが彼女を巻き込むのは話が別だ。



「いくらここが安全でも、あいつらはアレの為ならなんだってする。無関係な真妃さんは巻き込めない」


「凪咲ちゃん…」


「工藤さんの彼女でしょう?少しは考えたら」



黒瀬の言い分に、工藤は目を丸くする。


彼女の強い口調の裏には家族を殺されたと言う事実があるのは明白で、


工藤は静かにうなずいた。





「分かった。じゃあ、黒瀬は俺が管理しているもう一つのマンションに移ろう。警備もここと同等だし、住所を公表しない分、より身を隠すのに適した場所だ。それに警視庁に近い場所にある。ここよりも安全かもな」


それを聞くと、真妃が呆れたようにため息を付く。


「ああ。例のヒロの隠れ家ね」


「隠れ家?」


「そう、誰も場所を知らないの。私にも教えてくれないヒロの家出先。ケンカしたらいっつもそこに逃げ込むのよ。携帯のGPSも切ってね」


卑怯よねー家出にそんな場所使うなんて。


真妃が不満そうに下唇を突き出して黒瀬に言うと、工藤は気まずそうに目をそらした。