(ただの玉露好きの俺様おっさんとは知らねえな、こいつら……)




去っていく警官を憐みのまなざしで見つめる工藤。


こいつホントはどうしようもないアホなんだぞーと心の中で呟きながら、先に歩いていく佐久間をそそくさと追う。



人通りが多い廊下に出ると、佐久間が普段いかに力を誇示しているかが窺い知れた。


過行くもの皆が皆、慌ててその場に立ち止り脇によけて敬礼をする。


いつの間にか彼が行く道には敬礼をする人々が軒を連ね、まるでどこかの大名行列でも見ているかのようになっている。


佐久間の顔を覗くが、優越感に浸ったとんでもなくだらしのない顔で、とても見ていられるようなものではなかった。




ため息を付きつつも工藤は佐久間の後に続いて歩く。





しばらく歩くと捜査一課と書かれたプレートがある部屋へとたどり着いた。



「ここがお前の所属場所だ。覚えとけ。迷うなよ」



「…はい」



「よし、入るぞー」



ガチャリと何の躊躇なしに扉を開ける佐久間。



「お待ちしておりました。佐久間警視監」



中で待っていたのはまたしても敬礼をする警官たち。


しかし、手前に居るいかにも上官らしい男は一度簡単に敬礼すると、さっさとその手を下してしまった。



「雪村、後の事は頼むぞ。任務の内容とここでの過ごし方を一から教えてやってくれ。コイツ、海外生活が長いもんでよお」



「うはは!了解了解!将来有望だねえ、俺に任せとけ」




(雪村って…)



「雪村のエロジジイ!!?」



「おーやっと思い出したかい、工藤くん。おひさーだね」



「エロジジイはやめんかボケェ!!コイツは仮にもお前の直属の上司、雪村 譲(じょう)警視だぞ!!」



「まじ!!?警視になったのあんた!!?」



「うんうん。それにまだジジイじゃないしね、ピチピチのアラフォーだ・し・ね!!」



「イてててっ!!!!」



笑顔の奥に怒りを見え隠れさせつつ、工藤のこめかみをぐりぐりと拳で攻撃する雪村。


やたら仲良さげな三人の姿に周りに居た刑事たちは目を丸くする。


それも無理はない。


工藤が相手をしているのは捜査一課の警視と、刑事部のトップである警視監。


警視はともかく、本当なら警視監が捜査一課に顔を出すことすら滅多にない事なのだ。


そんな彼らと何やら訳ありそうに見える、工藤と言う名の若い男が何より異様なのだがそれはまあ置いておく。




「んじゃ、俺はこう見えても忙しいから後は任せるよ」



じゃーなー頑張れよー


そう言うと、佐久間は背を向けて手を振りながら捜査一課の部屋から出ていった。




お前が呼び戻したくせに無責任な奴め


恨みがましそうに出ていった後を見つめる工藤なのだった。