廊下に一つしかないドアを工藤が乱暴にたたく。


すると



ガチャ


「そんなに叩かなくても分かるわよっ!」


中から金髪の美女が顔を出した。


「真妃!」


「遅かったじゃない二人とも!!ほらほらボーっとしてないで中に入る!」



二人を中に引き入れた真妃はとても綺麗な人だった。


日系に見えるが金髪は地毛。目鼻立ちもしっかりしているしおそらく外国の血が流れてるのだろう。


モデルのように綺麗なアーモンド形の大きな瞳が黒瀬をとらえる。



「貴方が黒瀬凪咲さんね。怪我してるでしょう?痛かったでしょうに…よく頑張った」



頭をポンポンしながらそう言う彼女は、外見は全く違うのにどこか工藤に似ていた。


その口調や、頭にのる手の感触がそう思わせた。





「おい真妃」


「ん?」


「後は頼めるな?俺はやることがある。絶対に外に出すな。明日の朝には戻るから」


「はいはい。りょーかい」


「車」


「あっキーね。ほらっ!」


「サンキュ」



放られた車のキーを受け取った工藤は、すぐに玄関に向かう。


急に離れていく彼を追う様に、黒瀬の手が工藤のスーツの袖をつかんでいた。


(あ、…)


無性に離れたくなかったのだ。


急速に転換していく状況で、知らぬ間にすがっていたのだと知る。


何が何でも守ろうとしてくれる工藤の大きな背中に。


兄とよく似た力強いそれに。




不安げに揺れる黒瀬の瞳を見た工藤は、動きを止める。


そして


そっと彼女を抱きしめた。


壊れ物を扱う様に、彼女の小さな身体を優しく包み込む。



「…大丈夫だから、ここにいれば怖くない。俺もすぐに戻ってくるから。絶対に、大丈夫」



子供を慰めるような仕草だったが、不思議と黒瀬の心は落ち着いた。



「黒瀬?」


「…ん。大丈夫」


「うん、いつもの黒瀬だ。真妃は信用できるやつだし、ここも俺が知る中で一番安全。安心してここで待って。明日の朝には迎えに来る」


いいね?



そう言って工藤は笑う。


彼の笑みを見ただけで無意識に強張っていた黒瀬の身体の力が抜ける。




それを確認して、工藤は部屋を後にする。


黒瀬は、彼が出ていった後をじっと見つめていた。



今は亡き、大好きだった兄の姿を重ねて。