工藤はというと、運転手に指示を出しながらスマホを片手に電話をかける。



「…もしもし、真妃(まき)か?いいかよく聞け。今からそっちに向かう。治療道具を準備して待機してろ。じゃ」



言いたい事だけ早口に伝えるとブツ、と電話を切ってしまった。


しばらく走るとタクシーはえらく立派な高層マンションの地下駐車場に入っていく。


そこからは早い。





ダッシュでタクシーを降り、中に入り込む。


マンションの中は、それはもうすごかった。


セキュリティー地獄みたい。


二重のオートロックに、門衛が二人。


監視カメラもエントランスだけで十台以上。


さらに先に進むと、にっこりほほ笑むコンシェルジュが「おかえりなさいませ工藤様」と頭を下げる。




「衛宮(えみや)さん、緊急なんです」


「はい。真妃様から伺っております。ご安心ください」


「…お願いします」



それだけ言うと、今度は大きなエレベーターに乗り込む。


驚くことにエレベーターは階を指定するボタンはなく、小さな四角の黒い液晶のようなものが隅にあるだけ。


それに工藤は懐から取り出したカードをかざす。


するとエレベーターが独りでに動き始めた。



もう何が何だか分からない黒瀬は、急速に上がっていく鉄の箱の中で固まる。


それに気づいた工藤が小さな声で耳打ちする。



「ここは国の中でもトップクラスのセキュリティーを誇る所なんだ。入口はオートロックと門衛たちで24時間警備されてるし、このエレベーターもコンシェルジュの衛宮さんから貰えるキーカードがなくちゃ動きもしない。」


それに、


音もたてずそっと止まったエレベータの扉が開いたその先はなんと最上階。



「この階のセキュリティーは特別強化されてる。辺りに狙撃できる建物もなし、お隣さんもいない」


「…て、こと、は…」


「この階には俺の部屋しかない」



全てを聞いた黒瀬は、声も出ずに本気で固まったのだった。