...




「帰る」


「そう、また来てね。待ってるから。風邪引かないように気を付けるのよ、一人暮らしに慣れたっていってもまだ三年目なんだから、何があるか…」


「大丈夫。ハナさんこそ気を付けて」


「もうっ話をそらさない!」



それから二人は少し雑談をして別れた。


手を大きく振って見送るハナは、最後に工藤の目を見て頭を下げる。



『なぎちゃんを、お願いします』



そう言われた気がして、工藤は小さく頷く。



今日、彼女は一度も笑わなかった。


唯一心を許せる存在に近かったハナにさえ。


彼女の背景が少し、ほんの少し見えてきた今、いろんな考えが頭をよぎる。


彼女の家族は何故殺されたのか。


彼らの敵は何なのか。


彼女は何を隠しているのか。



(まあ、どうであれ…)



やることは一つ。



(守ろう、何が何でも。)



帰りの電車を待つ彼女の横顔を見ながら、心に固く誓う。






そのわずか数時間後、物語が急速に動き始めるとは知らずに――