ここに必要なものはそろえてある。


そう言って差し出されたのは、新品の警察手帳と手錠・拳銃、そして捜査一課にのみ配られる赤いバッジ。


警察手帳を手に取って開いてみると、工藤自身の顔写真と警部と言う文字が目についた。




「いきなり警部っすか…」



「ふん、妥当な判断だ。本当は警視にでもしておきたかったんだがな、さすがに警視となると動きが制限され過ぎる。事務処理が多くなるもんでな。そうなるとお前に任せたい仕事に影響が出かねん」



「…分かりました。じゃ、その任務ってのは…」



「それについては、お前の所属する部署についてからだ」




行くぞ。


立ち上がる男の後に続いて、工藤も警察手帳や手錠等を自身の服にしまいながら立ち上がり後を追う。



しかし、部屋を出る直前になって男は振り返り、工藤をギラリと睨み付けた。




「おいテメエ、二人の時は生意気な口きいてもいいが、一歩この部屋の外に出たら俺はここのボスになる。俺様を敬え!いいな!!」



「へいへい」



「ホントに聞いてんのか!テメエ!」



「聞いてるよ、ほら、さっさと行く」



「うおっ」




入り口付近でグダグダしていた男を、工藤は我慢できずに廊下に押し出す。


すると、扉のすぐそばに人がいたようで、突然飛び出てきた男に心底驚いていた。


だがその男の正体がわかると途端に表情を変え、ぴしりと敬礼を示す。




「これは佐久間警視監!!!こちらへいらっしゃっていたのでございますか!!!」



「あ?あ、ああ…つい今しがたな」



「連絡をいただければお迎えに上がりましたものを!」



「私なんかの為に迎えなど準備しなくて構わんよ。それより君らは一つでも多くの事件解決に尽力してくれたまえ」



「佐久間警視監…!!!ありがたきを言葉!!警視監のご期待に沿えるよう精一杯尽力いたしますっ!!」



「うむ、頑張りたまえ」




去っていく警官の後ろ姿を見送ると、自分に対する彼の敬いっぷりをどうだと言わんばかりにニヤリと笑みを向けて自慢してくる。


半端ないドヤ顔である。


この玉露が好きなだけの子供の様なオヤジ。




名を、佐久間 嶺治(りょうじ)と言い、


工藤を警視庁に呼んだ張本人であり、工藤の所属することとなる警視庁刑事部のトップの人間なのだ。