その日の夜中



工藤は一人、警視庁の一課のにいた。


電気はついておらずブラインドから差し込む街の灯りだけが部屋の中を照らしている。



工藤の頭を占めるのは、彼女が言った言葉。



一体何人が警護にかこつけて彼女に近づき、傷つけてきたのだろう。


彼女は強い、おそらく身も心も。だからきっと、彼女にとってこの件はさして重要性はない。


ただ警察そのものに失望したというだけ。


問題はそれだけではないだろうが、任務どうこうの前にまずは信頼を回復せねば。



それに、



(…『リズム』に意味があるって…どういうことだ…)



分からないことだらけで工藤は頭を抱えるのだった。










次の日の朝。




「やあ」


「……昨日の話忘れたの?」




登校前に再び工藤は黒瀬の前に現れた。


彼女は心底嫌そうな、うんざりしたような顔で工藤を見る。



「うざい」


「あーちょっと待って…!」



そう言って引き留めると、黒瀬凪咲は怪訝な表情で振り返った。



「…今日は昨日の謝罪と俺の事を話しておきたくて」



工藤は真剣な表情で言う。



「昨日は悪かった。今後一切、いや有事の際を除いて、これからは君に近づいたり話しかけたりしないようにする」


この通りだ。


工藤はそう言って、彼女の前で深く頭を下げた。


黒瀬凪咲は黙ってその姿を見つめる。


と言うよりは観察しているようだった。



「……」


「すぐに信用できないことは分かってる。でも、例えお節介だったとしても、俺は佐久間や雪村に君を守ってほしいと頼まれてアメリカからやって来た。君に何と思われようが仕事は全うする主義でね。何が何でも君を守る。その為に君の傍にいることを許してほしい。頼むよ」


「…」


「ついでに言うと、昨日君に話しかけようとしたのは、下心があってのことじゃない。俺は君の事が知りたいんだ。警護する者として、その対象者の背景を――」



「ストップ」




工藤が言いかけた言葉を、黒瀬が突然遮った。


何事かと工藤は戸惑う。



「……歩きながら話して。リズムを崩したくないって言ったでしょ」


「…了解」



どうやら彼の誠意は伝わったらしい。


その事にほっと息をついて、工藤は黒瀬の後を追った。