(東京…久しぶりだな……)



数年ぶりの街並みに、空港から出てきた男は目を回す。


口元に笑みを浮かべながらしばらく辺りを見渡すと、近くに止まっていたタクシーに乗り込み、運転手に一言。



「警視庁まで頼む」





男の名は、工藤 尋匡(ひろまさ)


FBIからやって来た刑事である。











警視庁の広い廊下に、工藤の靴の音がやけに大きく響く。


廊下ですれ違う警官たちはと言えば、皆すれ違いざまに足を止め見慣れない顔の工藤を不審そうに見ている。


じろじろと向けられるぶしつけな彼らの視線に居心地悪そうにしながらも、工藤は足を止めずに歩き続けた。



工藤が向かった場所は、警視庁刑事部である。





「失礼します。工藤です」



「…入れ」



ガチャリと開けた扉の先には、応接室のような部屋に一人の男。


けして若いとは言えない無精ひげを生やした男は、見るからにふかふかのソファに腰を沈め、湯気の立つ緑茶をズズズ…と音を立てて飲んでいる。




「お久しぶりです警視正…いや、今は警視監だっけかな。随分出世しましたねえ」



「ズズズ…ふう。まあな、俺も頑張ったのさ。お前も飲むか?美味えぞ、玉露の最高級品だ」



「玉露好きっすねー、今も“玉露のおっさん”って呼ばれてるんすか」



「なわけねーだろ!!俺様はめちゃっくちゃ偉いんだぞ!!今や玉露が最も似合うのはこの俺様に決まってやがる!!そのくらい偉いんだ!!」



「…はいはい…聞いた俺がバカでした」




どうやら知り合いらしく、工藤は口元に小さく笑みを浮かばせ、向かい側のソファに座った。


しかし、目の前に置かれた緑茶の入った湯呑には手を伸ばさない。




「なんだ、俺様がついでやった茶は飲めねえってか!」



「違いますよ、さっさと話をしてほしいだけです。どうして俺を呼んだのか、俺はここで何をしなきゃなんないのか」



「ふん、せっかちめ。相変わらずだな」



「ええ。でも、仕事はできますよ」



だから呼んだんでしょ?


自信ありげにそう言う工藤を無精ひげの男はため息交じりに見つめ、湯呑を思い切り煽り茶を飲みほした。



「...ぷはっ、ああ~うめえ。やっぱ茶は玉露に限る」



そう言うと男は湯呑を置いて立ち上がり、傍のデスクの上からある封筒をとりあげた。


中には何やら書類だけでなく物も入っているようで無駄に分厚い。


それを手に、男は改めて工藤の前に座る。




「以前伝えていた通り、今回お前にはここ警視庁刑事部の捜査一課で刑事として働いてもらう」