君の名を唄う




「あ、あの」



とっさに声をかける。



「私、傘を貸してもらった者です、ここで。あの、2年くらい前に…えっと」



言いながら顔がカァッと熱くなるのがわかる。

何を言っているんだろう、私。

恥ずかしくて彼の顔を見ることが出来ない。



ーーーそうだ、2年も前のことなのだ。

きっと、私のことなんて忘れている。

きっとーー。



「覚えてるよ」

「…っ」

「歌も」



信じられなかった。

心臓の音がドクドクと直接脳に響くような感覚。



「…あの、傘は」

「もういいよ。気にしないで」



どうしてだろう。

こんなにも綺麗な瞳なのに。

こんなにも優しい声なのに。

ーー冷たく、突き放すような。



彼の腕からノアがひょっこり顔をだす。



「ノア、久しぶりだね」



もう覚えてないかな。

そんなことを言いながら手を伸ばすと、ノアは喉を鳴らして応えてくれた。



「君は、不思議だね」

「え?」

「ノアは、僕以外に心を許したことがなかったんだ」



ーー君と出会うまでは。

彼の言葉に、また心が揺れる。