ウヘルでは、文字が無いと1つだけ困ることがあったんだ。

それはね、国王や、州を治める領主様の手紙です。

国の政策や、外交に関わる重要な手紙は、誰かに言付けると外部へ漏れ出すかもしれなかった。

大事な内容を人に伝えてもらうと、少なくともその人自身は知ってしまう。

でも、国王の手紙になる人達がウヘルにはいました。



民の名はスエカリク。

スエカリクは国王や領主の言葉を、指定された相手に届ける人達でした。

彼らは言われた言葉以外のものを話せない人達だったのです。



スエカリクが聞いた言葉は、彼ら自身の中に“保管”されます。

そして、届け先に会うと言葉を一字一句間違えること無く“再生”し、“削除”されるのです。

“削除”された言葉はもう彼らの記憶には残っていないんだ。



スエカリクは耳にした言葉を全て、“保管”してしまいます。

重要な証言から届くはずのない独り言まで、“蓄え”てしまう。

一定以上、言葉を“蓄える”と、そのスエカリクは“満ちて”しまうんだ。