「おじさーん!丸パン2つちょうだい」
まだ幼い面影が残る少年が市場の露店に声を掛けていました。
くりっとした目に、短めの黒い髪が活発そうな印象を与えます。
これが、この物語の主人公、カイリです。
「よお、カイリ!お使いか、えらいな。
2つで80レグだな」
恰幅の良い店主が、ほれ、と手を差し出します。
ウヘルでは数字も無いので、お金は硬貨の色と刻印で見分けるの。
カイリがお金を差し出す横で、同じ様にもう1本の手が店主へ伸びていました。
そちらへ顔を向けると、
「あ!」
と言って、カイリは口を閉ざしました。
そして、ユアンだ!、と口の中で呟きます。
カイリの横には、頭の後ろで長い髪を一括りにした少女が立っていました。
背丈はカイリと同じほどです。
彼女の露わになった耳には、矢が1枚の葉を貫く紋章が刻まれた耳栓がしてありました。

