その日ぼくは体操服がなくて見学した。
帰ったら教科書もなかったけど、鞄はトイレの中で見つけた。
翔はとっても怒って、びしょ濡れのぼくをジロジロ見ていくヒトを片っ端から睨んでいた。
ぼくは、辛くなんてないのに。
たまにクスクス笑う声が聞こえると、ぼくは必死で翔を止めなければならなかった。
翔はその度にぼくをキッと睨む。
離せよって。
でも、離したくない。
ぼくなんかの為に翔を汚したくない。
翔はぼくにとって、最初で最後の人間だ。
翔はぼくの世界の、たった一人の住人だ。
翔はぼくのびしょ濡れの身体をギュッと抱きしめて、タオルでぼくを拭いてくれる。
翔の服は完全防水性だから、水なんかでは翔はびくともしないのだ。
でもそんな高価な服は…そこまで高くはないけど…ぼくは買って貰えない。
でも、翔がぼくを救う前、ぼくには食事すら与えられなかったのだから。
服を着せてもらえただけ、感謝するのだ。
翔に。


