「おい、綾嶺(アヤネ)!」
「あ」
「おはよ、綾嶺」
「…おはよ…翔」
「ん。おはよ、綾嶺」
翔…彼女との(そう、こんなだけど翔は結構可愛いボーイッシュな女の子だ)1日は大抵こうやって始まる。
「綾嶺ぇ、今日部屋こねーか?」
「部屋…行く」
大体彼女は噴き出してこう言う。
「何だよその間!」
「ん~空気?」
ぼくはそう言うのだ。
翔はヤッホーとジャンプして、ぼくにハイタッチする。
にぃ、と笑った翔は結構魅力的で、茶色かかった髪と制服のスカートを翻しながら歩く姿が可愛い。
対するぼくはと言えば、冴えない中学の制服を校則通り着ている。
「綾嶺、今日って体育あった?」
「…うん、あった」
ぼくは、しばらく考えてそう言った。
「あ~、そっかぁ…」
翔はグッと眉を寄せて唸った。
「いい、綾嶺」
「何?」
「綾嶺をいじめたやつの名前、ちゃんと覚えておいて!」
「…?」
「自分があとで絞める!」
「…うん?」
よく分からなかったけれど。
ぼくは首を振った。
「無理だよ、覚えられない」
そう、ぼくには記憶障害がある。


