ベ・ス・ト・フ・レ・ン・ド/ショ・ウ


びっくりするぼど誰もいない。

霧さえかからないクリアな視界に、僕は目を反らしてじっと見つめた。


今日は風景画の気分だ。

目の前に広がる世界を、僕は画用紙に移して閉じ込める。

誰もいない世界の静けさすら閉じ込めて。


デジタルに描くのもいいけど、やっぱりアナログがいいと思う。

骨董品とまではいかなくとも今現在色鉛筆なんて売ってないんじゃないかと思う。

でも僕は広がった色を取っては戻すを繰り返すその感覚が好きだし、思い通りの色を探す小さな手間も好きだ。

だから僕は我が儘を言って、3Dコピー機で色鉛筆を作る。

僕はそうやって、このスケッチブックや水彩絵の具も手に入れる。



揺れる木の葉の繊細な動き。


都合のいい場面に都合良く色を乗せていく。


絵の中の世界にはいつでも雪が降る。

雨も降る、風も吹く。

たまに嵐になったりも、する。


一枚描いて僕は一度ページを見た。

昼間の公園。

明るいそこには、虹色の雨が降った所。

ベンチに丸まる猫。

朝露が輝く草花。


ピンクの花に滴を煌めかせて、僕はしばらくじっと自分の絵を見つめていた。


と。


突然その世界が二つに裂けた。


静寂の中で突然に消えた世界。

失われた木々。

僕は側の画材と眼鏡を掴んで走った。


眼鏡は、かけたくなかったから。


静寂と孤独の中を、僕は走った。