ラグタイム2号店

俺の右手は提灯、左手は静絵と手を繋ぎながら、町内会長の家へと足を向かわせたのだった。

町内会長の家につくと、すでに行列ができていた。

「私、今でも覚えているんだ」

順番を待っていたら、静絵が呟くように言った。

「祭りのこと?」

俺が聞き返すと、静絵は首を縦に振ってうなずいた。

「両親と祖母はいつも仕事で忙しくて兄のことばかり構ってたけれど、この日はいつもと違ってたの。

とても優しくて、私のことを名前で呼んでくれて…何て言うか、この瞬間だけ家族になれたみたいなそんな感じだったの。

あれから10年以上も時間は経っているけれど、1度も忘れたことなんてないんだ。

家族みんなで過ごした唯一の時間を」

「そうか」

俺はギュッと静絵の手を握った。