夏休みも終わりに近づこうとしていた。

祭りで帰宅が遅くなって出禁をくらったり、ケータイ解約の機器に追いやられたり、少し荒ぶっていた。

部活も暑い。私は部長になった。少し辛いこともあるし、先輩方が引退してうまくやっていけるか不安だった。
でも周りの支えもあったし、なにより部活が好きだったから頑張れた。


毎日は楽しくて、みんなと遊べるのが幸せだった。


夏休みに大イベントがあった。
先輩達バスケ部の県大会だった。
うちの学校のバスケ部はそこそこ強い。

先輩達ということは、悠介や矢野先輩がでるのだ。
直接見たいのが本望だけど、さすがにそれは恥ずかしい。

前日にスタメンの先輩全員にLINEをした。そこには矢野先輩もいる。

「明日、頑張ってください!!応援してますから!」

緊張したし、返信が待ち遠しかった。

「ありがとう!俺、負けたら泣いちゃうかも(笑)」

やばい、本当に嬉しい。
ずっと憧れてた先輩だから。
ずっと先輩のバスケ姿を見てたから。
すこしだけ、自分の心が揺れたのがわかった。

「先輩が泣くところ想像できないですよ(笑)絶対!勝ってください!」

負けてほしくなかった。
負けたら先輩のバスケをする姿が見れなくなってしまうから。先輩を見る機会がなくなってしまうから。
まだみていたかった。

「明日結果報告するから!応援よろしくね!」

また明日も連絡来るんだ!それだけでよかった。

「ありがとうございます!待ってますから!おやすみなさい〜」

先輩に連絡を入れたのは挨拶の時以来初めてだし、不安だった。
先輩の優しさを肌で感じた。


悠介には喝を入れといてやった。
「スリーちゃんといれなきゃ殴るからね!!絶対勝てよ!」

もう仲のいい友達みたいなもんだったし、悠介もわたしの性格をわかってたからだろう。

「俺スリーしかできねーし。てか負けねーし。いい報告待ってろあほ(笑)」

なんて、余裕ぶっこいた返信だった。きっと相当緊張してたと思う。


次の日、わたしは何にも集中できなかった。試合結果が気になりすぎて。

夕方、悠介からLINEが入った。

「1回戦突破!!!明後日2回戦!スリーは絶好調でーす✌️」

1人全力で喜んでいた。明日体育館でまた先輩が見れるんだと。悠介が見れるんだと。

「おめでとう!!明日最終調整頑張れよ!」

わたしは矢野先輩からの返信を待った。
悠介からLINEが入って間もない頃だった。
「関根さん!今日勝ったよ!!応援ありがとう!次もよろしくね〜」

待ってた。これを待ってた。これほど幸せなことってあるのかな。好きな人からのLINEの嬉しさ。とてつもないパワーになる。

「お疲れ様でした!おめでとうございます!次も応援してます〜」

今回もすぐにやりとりは終わってしまったけど、嬉しかった。何回もトークを見直した。ニヤケが止まらないよ。


次の日、隣にはバスケ部がいた。先輩がいた。スリーを決める悠介もいた。

先輩はいつも落ち着いていた。
試合になるととてつもなく真剣な顔つきになる。
だから見入ってしまう。
この時間が幸せ。もっとこの時間が続いて欲しいと思った。

2回戦の日。わたしはOFFで家でスマホとにらめっこだった。食事もすぐに済ませて、また画面と向き合っていた。

夕方、先に連絡をくれたのは悠介だった。
「ごめん。負けちまった。」

涙が出た。わたしは応援しかしてないけど、いままで頑張ってきた悠介を知ってるから。悠介はいつも努力を欠かさなかった。

「お疲れ様。よく頑張りました!!!!」

こんなことしか言えないのが情けなかった。

矢野先輩から連絡が来たのは1時間ほど時間をおいてからだった。

「負けちゃったんだ。応援ありがとうね。」

この瞬間実感した。もう先輩のバスケを見ることができないと。大好きな先輩のバスケをする姿を。あの真剣な表情を。笑うと目元が可愛いところを。
気合いを入れる時のあの声を聞くことも、たまにふざけてる笑い声を聞くことも


普段の落ち着いた表情の先輩。
でも怒るとすごく怖いくて、機嫌が悪くても怖い表情の先輩。

朝にとっても弱くて、いつも顧問の先生に怒られていた先輩。
放課後は残って練習していた先輩。


全部、ちゃんと覚えてるし、いつも見てきた。いつも追いかけてきた。

やばい、涙止まんないや。
胸が痛かった。

「お疲れ様です。また先輩のバスケしてるところみたいです。」

近くにいることが出来るわけじゃない。ただの先輩後輩の関係だから。それにもう連絡を取る理由もない。

その後、数回のやりとりでLINEは終わってしまった。寂しかった。


悠介が言っていた。
「あの試合のあと、矢野泣いてたんだ。バレないようにって思ったのかもしれないけど、俺見ちゃって。あいつが泣くのを見るのは初めてだったわ。」

それだけ思いが強かったんだよね。
みんなの前で強がって、素直じゃないんですね、先輩。
きっと先輩の涙は相当美しいんでしょうね。


当然のことだけど、バスケ部も代替わりをした。もちろん先輩が来ることは無かった。
寂しい夏の終わりだった。