体育祭翌日だった。

念願のスマホを手に入れた。

いろいろな人を友達として追加していく中で、あなたがいた。

声をかけようか…どうしよう…

迷った末、私の親友である愛美に相談してみることに。

使い慣れないスマートホンをゆっくり動かした。

「先輩方にも挨拶入れておくべき?」

すぐ既読がついた。

「そうしたほうがいいと思う。」

「誰からすればいいだろう?」
既に緊張していた。

そりゃそうだ。先輩方と話したことなんてほとんどない。

何を言われるかわからないのに、安易に声をかけるなんて無謀だ。

「坂口先輩とか?すごい優しいよ。」
確かに、体育祭でお世話になったし、話しかけやすい。

「矢野先輩にはどうしよう」

あれ、なんで聞いてしまったんだろう。

「んー。まっ、いいんじゃない?わたしあんまり話したことないけど。」

「わかった、ありがとう」

愛美がそうするのも無理はない。
先輩には1年以上付き合っている彼女がいる。本当に可愛い。美男美女のカップルだ。

その彼女は同じバレー部の先輩で、無駄に目をつけられても困る。

とりあえず、矢野先輩より先に坂口先輩に連絡してみよう。

「追加させてもらいました。2年の関根です。よろしくお願いします。」

あまり緊張はしなかった。優しいと聞いていたから。

わりと返信ははやかった。

「どうも。3年の坂口です。よろしくね!」

よかった。無視されなかった。

でも、この後の対応に困る。無視するのは失礼極まりない気がする。

迷った末に送った。

「あ、あの!坂口先輩!体育祭ではお世話になりました。お疲れ様でした。」

そして既読が速い。

「いえいえ。関根さんこそ、お疲れ様!」
「あと、先輩呼びしなくていいよ。敬語もやめよー」

うおっ、急展開。これが噂の優しいか。
これもまた返信に悩む。

「いやっ!でも一応先輩ですし!!」

これしか言えない。こんなこと人生で味わったことがない。

「いいのいいの。気にしないで!俺、そういう上下関係とか苦手で(笑)」

確かにそうかも。

同級生を見ていると、坂口先輩に対してニックネームを使っている人が大半だ。

えっとこれは、私もいいのかな?

「じゃあお言葉に甘えて。」
「なんて呼べばいい?」

お言葉に甘えてしまった。
少し違和感を感じるけれど、こうやって人気の先輩と話せている私は幸せ者だな。
明日、愛美に話してみよう。

「悠介でいいよ。」
「俺は、関根さんのことなんて呼べばいい?」

えええ!先輩から呼んでもらえるのか!本当に初の挨拶相手が悠介でよかった。

「なんでもいいです!」
ちょっと興奮している私。

「下の名前は優だよね?優って呼ぶね。」

名前呼びですか!!呼ばれたことない!ちょっとどきどきする。

買い物だったので「なにケータイ見ながらニヤニヤしてるのよ。」と母に注意された。

我ながら気持ち悪い。
でもほんとに嬉しかった。

この日からわたしと悠介は毎日のように連絡を取り合っていた。

別になにを話すという決まりはない。
他愛のない話を続けていた。

夜が弱い私は、よく寝落ちしてしまったけど、悠介は何事もなく接してくれる。

悠介のことをたくさん知った。
部活のことや、受験のこと、今日あったことや、好きなもの、恋バナ。

頭はそこまで良くはない。勉強なできるだけしたくないと言っていた。

お姉さんも受験生だということ、お母さんが地元のスーパーで働いているということ。

彼女はいない。いたことはある。ただ、相手が重くて別れたらしい。そして恋愛感情もなかったと。


学校1わたしが知っているんじゃないかなってくらい知った。


1週間もたつとお互いに遠慮なく色んなことを言っていた。

電話もできるようになった。

朝まで電話をして、徹夜で学校に行ったこともあった。
部活中、顔を合わせて笑っていた。よくほかの先輩にからかわれた。

テスト前も関係なしだ。
お互いワークを進めながら、寝ないように頑張った。私は相当溜め込んだからか、朝五時頃まで終わらなかった。
悠介はわたしを寝ずに見張ってくれていた。本当に感謝してる。

悠介は優しくて、相当頼れる人だ。悩みも親身になって聞いてくれていた。

いつの間にか、目で追うのは悠介になっていた。

スタメンだし、あの性格だから人気も相当ある。

いつも話していたのはバスケの話ばかりだった。

スタメンの中でドリブルはあまりうまい方ではないらしい。

ただスリーポイントは飛び抜けている。


悠介が言っていた。
「俺は、スリーポイントだけが取り柄だから、極めてる。100本入れるまで部活から帰らないよ。」

そりゃうまいわけだ。
努力の賜物だ。

尊敬もした。


自分の本当の思いなんて知るよしもなく、少しずつ悠介に惹かれていた。


この複雑な気持ちは何だろう。