5月末頃。

学校は体育祭の準備で慌ただしい。

わたしは赤団。

わりといいメンツそろってんじゃんとか言いながら、全校の顔合わせ。

神様はこのときから歯車を動かしていたんだね。

「赤団団長の矢野 隼です。よろしく!」
「団員の坂口 悠介でーす。よろしくー」

深い声と満面の笑み。

女子から聞こえる興奮の声。

このときは憧れの人で、かっこいいー。としか思っていなかった。

今思えば違う。そうじゃない。

このときには既に、あなたを目で追っていた。

毎日あなたと顔を合わせられるようになった。話しかけることもできるようになった。

素晴らしい行事だ。

あなたの後ろ姿を見ていたけれども、手足は筋肉がすごい。

たまにちょっとふざけて、後輩に声をかけていた。
その人たちがちょっと羨ましかったり(笑)

わたしは体育祭練習中もよく怪我をした。
だから見学のことが多かったのだけれども、これは絶好のチャンスなのだ。

先輩方が脱いでいったジャージをたたむ。

無駄に緊張した。

うまく畳めなかったらどうしようとか、触られるの嫌だったらどうしようとか、そんなくだらないことばかりを考えていた。

「矢野」
あ。先輩のジャージだ。

手に取った時に、ふわっといい匂いがした。
このまま恋に落ちてしまうんじゃないかっていうくらいきゅんとした。

先輩の短距離走のタイムを図ったりもした。
この時間が大好きだった。
唯一先輩と二人の時間。

先輩が掛け声とともに、ものすごい勢いで走り出す。
見ているこっちまでハラハラした。

「矢野先輩、11.23」

うわっ、はや…

「了解!さんきゅ!関根さん!」

ちなみに中3男子の平均は14秒くらい?
県大会とかいけるんじゃない?ってくらいだ。

何度も何度も頭の中で巡らされる姿。忘れられそうになかった。

そうやってぼーっと考えていると、目の前でひらひらと手が動いていた。

「おーい。関根さん?大丈夫ー?」

「あ、ごめんなさい!」

目の前に映るのは、少したれ目の綺麗な顔立ち。見たことあるな。

「や、矢野先輩?!あ、すみません!どうしたんですか?!」

恥ずかしい姿を見られたな…

「今日ラスト!測ってもらっていい?」

「わかりました!」


また先輩を見ることが出来る。


目の前を過ぎる、真剣なあなた。目つきが変わっていて、またちがう先輩を見れた。

「矢野先輩、11.25」

やっぱ速い。

「関根さんありがとう!気をつけて帰ってね」

「はい!お疲れ様でした。」

この時間が幸せだった。

ずっと見学でいいなんて思っていた。あわよくば、先輩と一緒にいたいと思った。

こういうときに自分が怪我ばっかするドジで良かったなと思う。


こうやっていられる時間がずっと続けばいいと思っていた。