中2・春。

「あ。すごい…」
その頃は憧れの先輩でしかなかった。

180cmの長身に、少し可愛げもある綺麗な顔立ちの、1つ上の中3のバスケ部の先輩。
名前は 矢野 隼 (やの はやて)。
そのときはこれしか知らなかった。

噂では、彼女がいる。そして頭も相当いいらしい。わたしが見る限り、バスケをする姿は相当かっこいい。普通の人でも見とれてしまう。

(わたしとは住む世界が違うわ。)

いつもそう思っている。

私、関根 優(せきね ゆう)は本当に普通。勉強はいつも10番くらいの微妙なラインだし、顔も整っているには程遠い。メガネのポニーテールっていうなんの変哲もない中2。
それに彼氏もいない。
そしてどこにでもいる典型的な運動音痴だ。それでも好きなバレーは中学でもやめられなかった。

部活中。
(至福の時間だー!)
休憩時間。

これはバスケ部を眺めている時間。
スポーツ観戦が好き。

隣のバスケ部を見ていていつも目に付くのはあなた。

バッシュの音と共に、素早く移動するスタメン。その中にあなたはいた。

速い。
どんどんボールが渡っていく。

そこであなたが決めたレイアップシュート。綺麗だった。

誰かがシュートを入れる度、歓声が上がる。

「矢野先輩かっこいいー!」
「私は坂口先輩かなぁ。」
「いやいや!マイク先輩でしょ!」

スタメンの先輩はとてつもない人気だ。

光先輩はキャプテンで小柄だけど、すごい存在感。本当に優しい。背番号は4。

マイク先輩はイギリスのハーフで高身長。英国紳士ってやつだ。背番号は5。

悠介先輩は誰にでも分け隔てなく優しい。スリーポイントがとてつもなくうまい。背番号は8。

涼先輩はスタメンのムードメーカーでいつも気さく。背番号は7。


この頃のわたしは考えもしなかったと思うけど、この人たちがわたしの運命を変える。


そしてあなた。矢野隼。背番号8。
あなたはセンターを守っていた。きっと1番の人気だったんじゃないだろうか。

「優はさ、どの先輩が好み?」
「矢野先輩…かな…」

この頃から、私の中でなにかが始まっていたのかもしれない。