家族のいないロートにとって親友のブラウは本当に大切な人だった。彼は病弱だったが、温かい家族がいてロートもその一員となっていた。同じ釜の飯を食べ、同じ食卓を囲んで、同じ屋根の下で過ごす。それがロートの九歳までの道程だった。そんな日常が、あの日崩れた。
その日は風が強かった。ブラウは熱を出して別室で看病されていた。その扉を見つめながらも、ロートは学校へ向かった。いつもの様に授業をうけ、校庭で体を動かし、日の沈む前に教室を出ようとした、その時
「リューゼンが出たぞ!」
一人の生徒が恐ろしい顔でそう叫んだ。生徒が皆窓に飛びつく。
それは誰が見ても黒い翼をしたリューゼンだった。
直ぐに先生が駆けつけ、村長の家に行く
ように言った。村長の家には結界があった。校舎の裏口から一斉に出て行く。そして列をつくり皆慌てて駆けて行く。その時ロートの頭に不安がよぎった。ブラウの家は村長の家から遠い。それに何もない丘の上にあるため、看病でもしていたら気付く可能性は低い。
ロートはと咄嗟に列を飛び出し、ブラウの家へ向かった。ブラウの家はひとつ林を越えた所にある。身体中に打ちつける木々の痛さも知らずロートは駆けた。そして家に入ってブラウとその家族にあの存在を知らせ、逃げて、また、一緒に

そこにあったのは粉々になったブラウの家だった。
それはもはや家の原型を残していなかった。

ロートは全てを悟る前に涙を流した。その現実がみえないように。風がその涙を奪う。そしてまた満ちていく。

ブァサッ

ロートに強風が打ちつける。それは何かの存在によるものだった。あの黒竜が、ロートの後ろに降り立ったのだった。
ロートはゆっくり後ろを向く。ふらつく身体を支えながら。そして地獄を見るような顔で黒竜を睨み、力一杯拳を打ちつけた。

その後、何があったのか分からない。
ただ見ていた者が三名いた
ヴォルケ=レルネ
ブルート=エンジェル
シュテルン=コストー
それは終わりでもあり、始まりでもあった。そう、三名は告げている。