これは昔の話。あるところにてるまという青年がいた。その青年は、仲間を集めて、あの、宇宙人仮面と戦って、世界を平和に導こうと、自分の住む山奥の村から遠く離れた街まで向かっていた。なぜこの青年がわざわざ山奥から遠く離れた街へと出てきたのか。それは、3年前に遡る。
街の地図にも載っていない山奥。村人は30人いるかいないかの小さな小さな村に生まれた一人息子だった。父が農家を営んでいたこともあって、よく畑仕事を手伝っていた。非常に正義感が強い少年で、村の悪ガキ三人をたった一人でとっちめたこともあった。そんなある日、宇宙人の仮面をかぶった男がたった一人でやってきた。めったにこない客だと、村人が寄ってきた。が、悲劇は一瞬にして起こった。村人たちを手当たり次第に斬り殺し始めたのだ。倒れる村人、吹き上がる血飛沫、泣き叫ぶ悲痛な声、これをみた父親は、逃げろ!と叫んだ。てるまは恐怖を押し殺して、すくみきった足をなんとか動かしてその場を走り去った。馬も牛も母親も父親もいない。夜の静けさと闇に一人怯えながら進んだ。飢えにも耐えて、今にももつれそうな足にむちをうって、歩き続けた。村から百キロ位離れた所に、親戚の家があった。親戚とは言っても会ったことはない。実感は湧かないが、確実に親戚の家へ近づいている。そう思うことだけが、彼の唯一の救いだっただろう。そして、親戚の家が目の前にせまったとき、ふと、体中のちからが抜けていくのを感じた。それは立っていられないくらいの脱力感だった。親戚が戸を開けると、突然ぼろぼろの服を着た少年が目の前に倒れていて、驚いた。すぐに部屋へ連れ込んで、付きっきりで様子をみた。少年が目を覚ますと「ああ、良かった。死んだかと思ったよ。」と、安心していた。不思議と足の痛みがない。親戚の話だと、丸三日寝たきりだったという。てるまは、急いで訳を話すと、親戚は、黙って「そうか、そうか」と頷いた。「ああ、名前を言ってなかったね。僕は源太郎。よろしく。」源太郎はそう言って少し笑った。てるまもつられて笑った。しかしその直後、源太郎の笑顔が消えて、話は本題にはいった。てるまには船の碇のように頭のどこかに引っかかる疑問を源太郎にぶつけた。一つ目は、あの殺人鬼は何者なのか。二つ目、何のためにわざわざ遠い村まできたのか。三つ目、村人は今どうなっているのか。一通り言い切ると源太郎はどこかへ立ち去ってしまった。心の中に立ち込めた雲がはれた気がした。と、何日歩いただろう。やっと町が遙か遠くに見えたときは、日は暮れかかっていた。それでも、疲れ切ったぼろぼろの足を一歩ずつ前へ前へ進めていった。てるまが街の外れに着いたときには、当たりは闇に包まれていた。
「今日はもう遅い。宿をとって明日街の中心へ行こう。」そう思って、街外れの小さな宿で身を休めた。