「この村の村人が怠け者だと思ったか.

 …ここは聖地だった.

 今のネコハクもそう思っているはずだ.

 この村は魔法の生まれた地として栄えた.

 観光目的などではない.

 あの漁師達は本当かどうかわからないかもしれないが,ここで全ての魔法が生まれている.

 我々の魔法体系だけではなく,ネコハクの魔法やその他全ての魔法もだ.

 …しかし今では誰もこの地には来なくなってしまった.

 それにはいくつかの理由がある.

 ひとつは,脱魔法感覚(※)が広がり,魔法に対する興味が大きく失われたことにある.
★脱魔法感覚:魔法感覚の使用を放棄すること.マホウビト政策はこれをしない人,そしてその優れた素質を持つものを撲滅させるものである.

 そしてふたつめは我々の魔法体系がマジックヴィレッジに聖地を移ってしまったことにある.

 そしてこの地には何も残っていなかった.

 魔力の源が取りさらわれてしまったのだ.

 だから,我々の魔法体系が結果として大きな影響を持ってしまったのだ.

 残りの魔法体系は強力な魔力の恩恵にあずかれなかった.

 …オキガミは信頼を失ってしまった.

 残された魔法体系はオキガミを出て行くよりほか,なくなってしまった.

 世界は脱魔法感覚一色になっていた.

 だが,オキガミを去った魔法体系を信じる人はあきらめずに,新たな聖地を求めていた.

 ムウガ島はそのひとつだ.

 最後の理由は,脱魔法感覚政策でその後発展した国とは違い,この村の産業は無くなってしまった.

 …いや,むしろ棄ててしまったというのが正しい言い方か.

 私が思うに,この村には脱感魔法覚はふさわしくなかったのだ.

 この村は自分達で何とかしようとはしていなかった.

 脱魔法感覚後は他国のことしか見ていなかった.

 結果として,ここには何もなくなった.

 漁業だって,この村はたいしたことはないのだ.」