水神は自分が雷神を逃がしてしまったということをわかるまでそんなに時間はかからなかった.

周りにいた神達は少し戸惑っていたが,犬のマテーラだけは時間が動いているように,主人の指図も受けずに落ち込んでうつむいている水神を台にして壁を越えていった.

他の神達も気づいて,迂回をしてマテーラに追いつこうと走り始めた.


 雷神とは言ってもまだ儀式を終えていない単なる足の早い小僧に過ぎない.

生神をはじめ他の神達がマテーラを発見したとき―そんなに時間はかからなかったが―にはもう,雷神の尻を掴んでいた.

「マテーラっ!」

主人の声にマテーラは主人の方を向いた.

満足げな顔をしているように思えた.

土神と,手招きをされた火神がマテーラから雷神を受け取った.

「何をしてるんだ.

 おいらを放せ.

 何もしてないぞ.

 放せ.

 離せ.」

いくら雷神が暴れても無駄なことだった.

土神はいつものように手馴れた手つきでそれこそ子どもをあやすように雷神を捕えている.

身のこなしの軽やかさもここでは何の意味ももたない.

さらに火神ももう一方の手を掴んでいる.

「風神,さあ,帰りましょう.

 星月様もきっとお喜びになるわ.」

聖神は土神と火神と,2人が掴んでいる雷神,愛犬マテーラ,そしてしょぼくれている水神を確認して風神に指示を出した.

風神は喜びもせず,悲しみもせず,無表情だった.

いつものことだ.

いつものように【ナルカ】を唱え,マジックヴィレッジに戻っていった.