「うわぁ、葵…顔がヤバいよ」
涙でボロボロな顔を見て、その笑顔がだんだん引きつったものへと変わっていく。
「あっ…メイク」
涙でグチャグチャとか、そんな可愛いものじゃなかった。
バッチリメイクをしていたことをすっかり忘れていて、きっと目元真っ黒で見られたものじゃないだろう。
今さらながら顔を隠しても遅いけれど、一応両手で隠してみる。
「顔、洗っておいで」
手渡されたクレンジングとフワフワのタオル。
まだメイク落としてないと思ったから…と、あたしのために用意してくれたものだった。
「…ありがと」
「落とし終わったらご飯食べよ?」
「うん、ちょっと行ってくるね」
クレンジングとタオルを手にいして、ここから一番近い女子トイレへと向った。
こんな顔を誰にも見せられないと俯いたまま早歩きで進んでいくと。
誰かとすれ違った瞬間に感じた花のような甘い香りに思わず顔を上げる。
振り返りはしなかった。
だけど、脳裏にはその後ろ姿が思い浮かんで離れてはくれない。
軽やかな足取りで、フワリと柔らかな髪をなびかせ歩いていく姿。
どこへ向ってるの?
誰も答えてはくれない問いを心で呟き。
ズキンと痛む胸をギュッと押さえて、トイレへと駆け込んだ。

