先輩が何か言っていたような気がするけど、あたしは振り返ることも立ち止まることも出来なかった。
あたしは先輩が嫌い。
呪文のように頭の中で繰り返される。
あたしは吉良先輩のことが嫌い。
嫌い、嫌い。
嫌い。
「きゃっ!?」
――ドンッ!!
涙を堪えて走り続けたあたしは、そのまま廊下の角を曲がったところで反対から歩いてきた人とぶつかってしまった。
勢いよくぶつかったせいで、あたしたちはお互いに後ろに吹き飛ぶように倒れてしまったところで。
サーっと血の気が引いて、慌てて起き上がり転ばせてしまったその人のところへ駆け寄った。
「すみません! だ、大丈夫ですか!?」
蹲ったままのその人を前に、アタフタしながら何度も頭を下げて謝るしかできなかった。
「こっちこそゴメンね」
少し高めの優しい声。
サラサラの長い髪を掻き分けて見上げられたその人と目が合ったとたんに、ドクン、とまた胸が痛む。
「い、いえ、あたしが廊下なんて走ってたから」
「ううん、あたしもよそ見してたから」
そう言った彼女が自分の周りを見渡した後に、あった…と拾い上げたものを見て。
「スマホ! 壊れてませんか!? 大丈夫ですか!?」
「うん、平気みたい。歩きスマホはダメだって言われてるのにね」
ゴメンね、と優しく笑う女の人を見てやっぱりズキズキと胸が痛んだ。

