結局撮るのは風景ばかりで、あたしがここに一緒に来た意味があるのかさえわからなかった。
暇すぎて退屈だった。
あたしの存在なんて忘れてしまったのか、一度だって振り向きもしない先輩の背中に。
あっかんべーをしてみても。
両頬を摘んで変な顔をしてみても。
ただ空しいだけ。
「…あたしはいつ撮ってくれるんですか?」
あたしの小さな独り言は、波の音に掻き消されてしまう。
先輩のカメラのレンズに、あたしが写る日が来るのだろうか。
先輩にあの真剣な眼差しで見つめられる日が来るのだろうか。
先輩には、今のこの景色がどうに見えているのかな。
ファインダー越しに見える景色は、どんな感じなのかな。
海の青と夕日のオレンジが混ざり合った海岸線を眺めながら。
「……キレイ」
溜息と一緒に思わず口から零れた言葉。
潮風になびく髪を片手で押さえながら、沈んでいく太陽をただ見つめていた。
どこか悲しくて、どこか切なくて。
だけど、優しく包まれているような温かさも感じられる不思議な感覚。
あの写真のオレンジに似てる。
だからだろうか、自然と溢れ出した涙がポロッと頬を伝って落ちて砂浜に溶けていく。
無意識に。
悲しいわけでも、辛いわけでもないのに。
溢れてくる涙。
ただ目の前の景色を眺めながら静かに涙を流していた。
そんなあたしを、先輩がカメラ越しに見つめていることに、気がつくことはなかった。