「本当にここでいいのか?」
「はい。歩いて2分もかからないので」
本当はウソだけど。
ここから歩いて10分はかかるけど。
だけど、いいの。
ここまで、一緒にバイクに乗れたことだけで。
満足なの。
「…じゃ、帰ります、ね」
「あぁ…」
会話が続かないのもいつものこと。
先輩を見れないのもいつものこと。
だから、今、先輩がどんな顔をしているのかわからないのもいつものことだった。
めんどくさいって顔してるのかな。
疲れきった顔、しちゃってるのかな。
今にも聞こえてきそうな溜息に少しビクビクしながら。
やっとの思いで顔を上げると。
「先輩…?」
思っていたのとは全然違う顔をした先輩と目が合う。
「明日、海に行くぞ」
「えっ……」
「明日も天気、晴れだから」
優しい顔をした先輩が、ポカンとアホ面をしてるあたしを見てフッと笑う。
「スマホ貸せ」
「えっ…」
「早く」
「は、はい…!」
慌ててカバンからスマホを取り出すと、先輩も同じように自分のスマホを取り出して。
「番号。080-1234-****」
「えっ」
「俺の。明日、部活終わったら連絡しろ」
それだけ言って、早々にスマホをしまって。
ヘルメットを被ってしまった。
「じゃあな」
ブォォォン、とまた大きな音を立ててエンジンを吹かせて。
爽快にバイクを走らせていく先輩の後ろ姿を呆然と見つめていた。

