家の近くの空き地で降ろしてもらって。
被っていたヘルメットを先輩に返しながら。
「ありがとうございました」
深く頭を下げてお礼の言葉を口にした。
本当は、恥ずかしくて先輩の顔が見られないから俯いてるだけ。
いくら日が暮れて暗くなったからといっても。
すぐそこに外灯がある。
こんな馬鹿みたいに惚けた顔を、先輩に見られるわけにいかないのだ。
夢のような時間だった。
こんなこと、もう二度とないかもしれない。
ううん、あったらいけないんだ。
先輩に返したヘルメットをチラッと見て、また伏せた瞳。
先輩の手には、先輩には不釣合いのピンクのヘルメット。
これって、誰のですか?
なんて、怖くて聞けない意気地なしのあたし。
だって、そんなの“彼女”以外に誰がいるというのだ。
だから、好きになったらいけないの?
だから、『嫌い』と言ったあたしが好都合だったの?
先輩にぶつけることの出来ない疑問を。
心の中で呟くしかできない。
家の前まで送ると言ってくれた先輩に。
この空き地で良いと言ったのも。
万が一、近所の人や親にでも見られたらいろいろと面倒だと思ったから。

