だけど、慌ててるのはあたしだけ。
目の前の先輩はゆっくりと目を開けると。
特に気にする素振りを見せることなく、その場に立ち上がった。
相変わらず無言のまま。
薄暗いせいで、先輩が今どんな顔をしているのかわからない。
イラついてるのか。
呆れているのか。
それともやっぱり、無関心?
「せ、先輩…?」
何か言ってよ、なんて思っても無駄だってわかってるけど。
この薄暗い部屋の中では、表情が見えないぶん余計に不安になってしまう。
すでに帰る準備が出来ている先輩を見て。
焦るように自分の荷物をまとめ始めた。
焦っているせいで、ペンケースから鉛筆と消しゴムは飛び出し転がっていくし。
スケッチブックはカバンから半分くらい飛び出したままだし。
アタフタする姿を、何も言わずにジーッと見られていると思うと。
余計に、焦ってしまって。
今度はカバンごとひっくり返してしまいそうになった。
「……慌てすぎ」
そう言って、ゆっくりと近寄ってきた吉良先輩の手には。
さっき落とした鉛筆。
「あ、ありがとう、ございます!」
近くなった距離に少しだけ後ずさりしそうになって。
真っ直ぐに見下ろされたその瞳から逃げるように視線を逸らす。
せっかく拾ってくれたのに、なんて可愛くない態度だろう。
ニコリとも笑えない。

