だけど、あたしはそんな先輩の写真を見たことがあった。

先輩が、どんな写真を撮っているのか知っていた。


と言っても、たった一度だけ。

それは去年の春。

あたし柴崎葵がこの高校に入学してすぐの頃のことだった。


たまたまフラッと立ち寄った写真展。

なんとなくボーっと眺めていた作品の中で出会った一枚の写真。


朝日だか夕日だかを撮ったオレンジ色の写真。


どこかの丘の上の公園で、そこから一望できる街の風景。

自分たちが住んでいる街なのに。

どこか別の場所のように見えた。

真っ赤な太陽が街中をキラキラと輝かせ。

綺麗だけど、どこか悲しく哀愁の漂う写真だった。


一目見て、心を惹かれて。

目を逸らすことができなかったのは、その写真の中にどこかじんわりとした温かさを感じたからだった。

その温かさに、強張った心が少しずつ溶かされていくような感覚。


止まっていた心が、ドクドク…と動き出して。

身体の中からじんわりと熱を感じた。


気がついたら、ポロリ、一粒の涙があたしの頬を零れ落ちた。

無意識で。

だけど、それをキッカケに堰を切ったように流れ出す涙を拭うことができなくて。

あたしは一瞬でその写真に魅せられていた。


写真を見て涙を流したのはあれが初めてで。

写真を見て何かを感じたのもあれが初めてで。

あたしはあの写真に、ボロボロだった心を救われた。


その写真を撮ったのが“吉良雅”だった。