◇ヌードで魅せて◇



先輩はあたしの名前を知っていた。

あの日、確かに話はしたけれど。

名前を名乗った覚えはないし。

先輩がわざわざあたしのことを調べるとは思えないけど…

あそこにいたのは、偶然ではないのかもしれない。


だとしたら、あの場所であたしを待ち伏せしてたの?


はぁ…、はぁ…。


息が上がって苦しい、肩が上下する。

特別教室が並ぶ校舎の誰もいない階段の踊り場で。

気持ちを落ち着かせるために、何度も深呼吸を繰り返した。


その荒い息遣いが、その場所にやけに響いて聞こえる。


何をそんなに動揺しているのだろう。


モデルの話だって。

先輩が勝手に話しただけで、あたしは一度も頷いてないし、はっきりと無理だとも伝えたはず。

だから、あの部屋に行く義理はないのに。


吉良先輩が勝手に言ってるだけ。

それにヌードモデルって何!? って感じだし。


だいたい、どうしてあたしなのか意味がわからない。


あたしには関係ない。


“拒否権はなし”とか意味不明だし。

どれだけ俺様なの。


行かない。

絶対に行くもんか。


そう自分の中で何度も唱えて、意思を固めていく。


絶対に、行かないんだから。

うん、と力強く頷いたと。

トボトボとゆっくり歩き出し教室へと戻っていった。