先輩はあたしの名前を知っていた。
あの日、確かに話はしたけれど。
名前を名乗った覚えはないし。
先輩がわざわざあたしのことを調べるとは思えないけど…
あそこにいたのは、偶然ではないのかもしれない。
だとしたら、あの場所であたしを待ち伏せしてたの?
はぁ…、はぁ…。
息が上がって苦しい、肩が上下する。
特別教室が並ぶ校舎の誰もいない階段の踊り場で。
気持ちを落ち着かせるために、何度も深呼吸を繰り返した。
その荒い息遣いが、その場所にやけに響いて聞こえる。
何をそんなに動揺しているのだろう。
モデルの話だって。
先輩が勝手に話しただけで、あたしは一度も頷いてないし、はっきりと無理だとも伝えたはず。
だから、あの部屋に行く義理はないのに。
吉良先輩が勝手に言ってるだけ。
それにヌードモデルって何!? って感じだし。
だいたい、どうしてあたしなのか意味がわからない。
あたしには関係ない。
“拒否権はなし”とか意味不明だし。
どれだけ俺様なの。
行かない。
絶対に行くもんか。
そう自分の中で何度も唱えて、意思を固めていく。
絶対に、行かないんだから。
うん、と力強く頷いたと。
トボトボとゆっくり歩き出し教室へと戻っていった。

