その声に反応したのは、あたしだけじゃなく。
近くにいた友だちや、他のクラスの生徒にまで注目されて余計に身体が凍りつく。
だけど、先輩はそんなことも気にすることなく。
真っ直ぐにあたしを睨みつけて。
「放課後、あの部屋に来い」
冷めた声が再び踊り場に響いた。
「絶対に来いよ」
「……いっ、行きません!」
「拒否権、なし」
「い、行かない。絶対」
動揺と緊張でどもるあたしを見て、先輩は少し俯いてフッと鼻で笑う。
俯いていても、まだ階段を上る途中のあたしからはハッキリと顔が見えるわけで…
微かに上がった口角、微かに細められた瞳。
下がった目尻。
そんな先輩から視線を逸らすことなんて、できるわけがない。
笑うとか。
そんな顔…反則、だって。
何もなかったかも用に去っていく先輩を、呆然と見送っただけで。
あたしはその場からまた動けなかった。
踊り場に残ったのはあたしと美帆だけだった。
「なに、葵! いつの間に先輩と知り合いになったの?」
美帆があたしの両肩を掴んでブンブン振り回す。
グラグラと揺れる頭は、余計にあたしの思考をグチャグチャにしてくれる。
「…知らない」
「えっ、だって…葵の名前……」
「知らないってば!」
美帆の手を振り払って、その場から逃げだした。
「葵-っ!?」

