衣装チェックも無事終わり。
思った以上の出来栄えに、みんなのテンションも上がったまま教室へと戻っていく。
「衣装、可愛かったね!」
誰かがそう言えば、それに賛同して盛り上がる。
楽しそうなあたしたちの声が、廊下に響き渡っていた。
ワイワイと楽しく誰もが笑顔で話に夢中で。
だから、階段を上っていく途中ピタリ立ち止まったあたしに気がつく人も少ない。
「葵…?」
隣にいた美帆だけが、一緒に立ち止まり不思議そうに頭を傾げた。
階段の踊り場で、腕を組んで壁に寄り掛かるその人と目が合った瞬間。
あたしの身体は、まるで氷のように冷えて固まってしまう。
立ち止まらないで、友だちに紛れて通り過ぎてしまえばよかった…なんて遅すぎる話。
もう、ばっちり目が合ってしまったことで。
今さら逃げられないだろう。
ドキドキと早鐘を打つ心音。
慌てて目を逸らしても、先輩の存在感に圧倒される。
少し前にいるクラスメイトも先輩の存在に気がついたのか。
みんなチラチラと吉良先輩のことを盗み見しては頬を染める人もいる。
だけどあたしは、そんな先輩が怖かった。
微かに震える手で、スカートをギュッと掴んだ。
小さく頭を下げて、そのまま通り過ぎたかった。
だけど、それをさせてくれなかったのは先輩の低くて威圧感のある声。
「柴崎葵」
はじめて先輩に名前を呼ばれたことに動揺して、思わず足を止めてしまった。
低く少しかすれた声が踊り場に響く。

