「先輩! 来てくれたんですか!?」
そう、みんなが騒いでいたのは吉良先輩だったのだ。
わざわざここまで来てくれたことが嬉しくてつい頬が緩んで笑顔になってしまう。
先輩も同じように表情を柔らかく緩めたことで。
周りの女の子たちの頬が微かに紅くなったのを感じた。
無表情、無関心、近寄りがたい雰囲気を醸し出していたせいで。
みんな見ているだけしか出来なかった先輩が。
今は、こんなにも穏やかに笑っているんだもん、みんなそのかっこよさにクラクラしちゃうのもわかるけどさ。
…面白くない。
「…笑っちゃダメ」
ムッとしながら放ったあたしの言葉に、またフッと笑みを零した先輩の大きな手があたしの髪を撫でた。
それが嬉しくて笑顔で顔を上げた瞬間、あたしの目に飛び込んできたのはムスッとした先輩の不機嫌顔。
「先輩…?」
「あと何分?」
「お昼までだから…あと20分ちょっと、です」
あたしの言葉を最後まで聞く前に、あたしの手を掴んでそのまま教室の中に入っていく。