「これ……」
「えっ…」
「撮ったの、俺じゃないよ」
あたしが写真を見ていたことに気がついたのか、同じところに視線を落としていた先輩から聞こえた声に顔を上げると。
「俺じゃない」
今度はしっかりとあたしの顔を見てそう言った。
「撮ったのは兄貴。……1年前に、死んだけど」
震えた声、悲しみに先輩の表情が歪んで見えた。
「香織は兄貴の彼女だったんだ」
チラッと見た写真の彼女、彼女の名前が香織さんなのだとはじめて知る。
「香織は俺に兄貴を重ねてるだけ」
先輩の切なさに震えた声があたしの鼓膜を振るわせる。
「香織はまだ、兄貴の死を受け入れなくて…だから、俺を兄貴の代わりにしてるだけなんだ」
その言葉を聞いて、さっきよりも強く胸が締め付けられた。
だって、あたしは先輩が香織さんを愛しそうに見つめていたことを知ってる。
優しく彼女に触れていたことも知っている。
なのに、彼女は先輩にお兄さんを重ねていただけだなんて……
そんなの、悲しすぎる。
滲む視界を、必死に耐えた。
どれもが一方通行な思いで、交わることのない悲しみ。
あたしがどんなに先輩のことが好きでも。
先輩は香織さんが好きで。
先輩がどんなに香織さんのことを思っても。
香織さんは、先輩のお兄さんを忘れられないでいる。
これじゃあ、誰も幸せになんてなれないじゃない。

