喋り相手などいない帰り道。
だけど、あの場所に行くのは、一人がいいんだ。
家とは反対方向へ向かう道。
私の胸の高鳴りは、止まることを知らない。
見えた。
見えてきた。
私の、好きな場所。
私の、好きな景色。
私の好きな…___________
「んんんんー!」
大きく伸びをし、ゆっくり目を開ける。
この瞬間、まばゆいオレンジ色の夕日が飛び込んでくる。
しばらく丘で景色を眺める。
ここからは、私の住んでいる町が一望できる。
夕日が沈みはじめ、辺りが薄暗くなったころ。
「そろそろ帰らなきゃ。」
そう思い、後ろを向いた。
「…君も、この場所が好きなの?」
「ぎゃっ。」
可愛くない驚き方をした私の前に微笑んでいたのは、一人の男子。
私と同じくらいの歳なのかな。
背は少し高く、髪の毛はこげ茶。
細身なのに、大きな手。
そして…
優しく笑う、整った顔。
こんな人、漫画の中だけだと思ってた。
彼は、そんな私の常識を、覆した。
「…こんにちは。あ、もうこんばんはか。(笑) 僕は水野颯(みずのはやて)。よろしくね。」
また、ふわっと笑った彼は、その大きな右手を私に差し出した。
握手??
ぎゅっ。。。
多分、私の顔は今、真っ赤だろう。
男子の手を握るなんて、どんだけぶり…///
「…ふふっ。顔真っ赤。」
「なっ!」
「ごめんね。そういうつもりで言ったんじゃないんだ!」
焦る君の手を、私はぎゅっと握り返す。
「分かってます。(笑)」
「あ、そういえば、君の名前、聞いてなかったね。なんていうの?」
「私は、浅岡千春。」
「…千春ちゃん。…可愛い名前だね。」
「いえ!!…えと、颯くん?も、かっこいいよ。」
「あはは!ありがとう。」
「ここには、毎日来てるの?」
「うん。僕は、ここから見る、夕日と町が好きなんだ。」
そんな颯くんの瞳は、光ったようにも見えた。
「千春ちゃんも、この場所が好き?」
「うん。大好き。」
「そっか。僕と同じだ。」
しばらくして、颯くんが、口を開いた。
「千春ちゃん。明日からさ、この丘で会わない?」
「…私、いつも友達と帰ってるんだ。今日はたまたま一人で…。」
「そっか。…残念だな。でも、女の子だから、彼氏や友達を大事にしなきゃだよね。」
眉を下げて笑う颯くん。
そんな優しい彼に、悲しい気持ちになってほしくない。
無理して、笑ってほしくない。
「…颯くん。毎日、は無理だけど、毎週なら会えるよ。…というか、会いたい…です///」
「いいの?無理してない?」
「会いたいから。」
「うん、ありがとう。僕も会いたいよ。」
「それじゃあ、私はこれで。また来週!」
「うん。暗いから気をつけてね。バイバイ!」
こうして、君との恋の歯車が、少しずつ音を立て、動き出した。
