「あたし……父親いなくて、顔も見たことない。それどころか、あっちはあたしがいることすら知らないらしくて。
だから、母親は仕事が大変で……夜の仕事してて。
たまに客、連れてくるんだよ……。
そんな母親見たくないし、見られたくないだろうから……。
家に居たくない……」
だからと言って、仕事をやめろなんて言えない。
生活は苦しいんだろう。
母親は何も言わないけれど。
それでも高校には行かせてくれているし、ひどい扱いを受けているわけじゃない。
だから別に、卑屈になってるわけでもないんだ。
なのに、何で泣いてるのかな。
「……水澤さんが家にいたくなかったら、行く所がなくなったら、俺の家においでよ」
「……は?」
優しく握られた手。
いつの間にか指が絡んでいて、隙間がないくらいだった。

