またね、と手を振って背中を向けた小鳥遊を確認してから、ステンレスの階段に足をかけた。
『好きだよ、水澤さん』
さっきのどこかかなしそうな、さみしそうな、そんな笑顔と、言葉が浮かんだ。
──あたしが持っている、その言葉の答えを伝えれば、小鳥遊はもっと笑ってくれるんじゃないだろうか。
この、胸の中に感じる鼓動が何かなんて、伝える機会は何度だってあった。
胸元のネックレスが揺れた。
あたしはただ、逃げていただけだ。
あいつが何かに臆病になっていることを理由に、自分の気持ちから。
自分の気持ちを伝えることから。
小鳥遊が迷っているなら、あたしが先を歩いてやればいい話なのに。

