「…。」

「…。」




長い長い沈黙が続く。




あたしはいまだに、
状況が掴めなくて
ただ下を向いていることしか
出来なかった。









「なんで俺の手掴んだの⁇」

「えっ…。」



沈黙を破ったのは葵だった。
葵は不思議そうに
あたしの顔を見る。






「そ、それは…。
そ、そんな事より‼︎なんで
あたしのとこに走って来たの⁇
あの紙になんて書いてあったの⁇」



あたしは葵の質問を無視して、
逆に聞き返した。





「ん⁇」

「ん⁇じゃなくて…。」



葵は首を傾げて、
あたしから目を逸らそうとしなかった。















「好きな奴。」


「えっ…⁇」




一瞬、時が止まったように思えた。

葵は特に表情を変えるわけでもなく、
短くそう答えた。




「好きな奴って…」


「好きな奴連れてゴールしろって
書いてあった。だから
お前んとこ行った。」






ー‼︎ー





この時確かに…
胸が大きく高鳴るのが聞こえた。






「んで⁇なんでお前は
あいつじゃなくて俺の手、
掴んだの⁇」


「…。」



何がなんだかわからなかった。
頭が真っ白になって
ぼーっとして…。





だけど…




あたしの口は、
知らない間に動いていた。






「葵の事…もっともっと
知りたいって思った…。
もっともっと、
笑っててほしいって思った…。
あたしにとっての…
光だから…
いつの間にか一緒に
いたいって…。」



「分かりやすく言えば⁇
好きって。」



ー‼︎ー




葵の真っ直ぐな視線から
目を逸らすことが出来ない。


息苦しくて…
熱くて…
もどかしくて…。


だけどこの気持ちは…
ちゃんと伝えなきゃ…。










「葵の事が…好き…。」

「ん。」







葵はあたしの言葉を聞くと、
ホッとしたように
優しく微笑んだ。





「…なのかもしれない。」

「は⁇」

「嘘…(笑)」

「ったく。可愛げねぇ奴。」



葵はあたしの冗談に
はぁっとため息を漏らしつつも、
呆れたように笑った。




「あたしね…人を好きになった事なくて。
どういう気持ちが好きなのか
全然分からなかった…。
だけど…これが好きって気持ちなんだって、
やっと気付けた気がする…。
葵と宮原先輩に手を差し伸べられた時に、
知らない間に葵を選んでた…。
心は体についていくって…
こういう事なんだね…。」



「正直、俺は自信無かった。」


「え⁇」





葵はそう言うと、
青空を見上げて呟いた。



「あの日初めてお前と星を見た日。
俺と似たような人生を歩んできたお前に
何かを感じて…。いま思うと、
出逢った時から何も無かった俺の人生に
光をくれてたんだと思う。」




今日の青空は…
いつもより青くて…
清々しくて…

今のあたしの気持ちみたいに
澄んでいるように思えた。






「葵も…何も無かったあたしの人生に
こんなに素敵な気持ちと…
あったかい感情をくれた。
あたしにとっての星は葵。
出逢ってくれてありがとう…。」


「ん。」



葵は照れ臭そうに微笑んだ。








暗いトンネルの中にいたあたしに、
小さな光で出口を照らしてくれたのは葵で…

そこから連れ出してくれたのも葵で。


人を愛することなんて
あたしの人生の中で
絶対にないと思ってたけど…


少しだけ…
また少しだけ…

生まれてきてよかったって思えた。


葵と出逢えた事で
あたしの心も少しは人間らしくなった。




葵…


本当に、本当に…



ありがとう。