教室に入ると、汗臭い大介が絡んできた。
「おいおい!今日、転校生が来るらしいよ!」
カバンから教科書を出しながら「へぇ~」と答えた。

「めちゃカワイイ子だったらどうするよ?!」

朝からハイテンションの大介がおかしかったが、俺はわざと真顔で答えた。
「そういう時ってさ、大体男子なんだよな」

そんな消火活動には怯みもせずに大介は燃え上がっている。
「いやいやいや!女子の匂いがするんだよなぁ~」と。

 始業の合図が鳴ると同時に、担任の加賀谷が一人で教室に入ってきた。
ザワツク教室。
 我慢できない大介が直球を投げ込む。
「はい!先生!転校生は?」

 加賀谷は鬱陶しそうな表情で「あのな、吉羽。朝からウルサイ」と言い放ち、大介の問いには答えずに出席を取り始めた。
 
 出席を取り終えると「はい」と出席簿をパタンと閉じて、加賀谷は続けた。
「じゃ、今から転入生を紹介する。」
 クラスの誰かが「ワオ!」と言った。
「長谷川、入って」

 教室はざわめきと共に全員の目線が扉に注がれた。

 ガラっと開いた扉から髪の長い女生徒が入り、同時に教室は男子の歓声が響き渡った。
ただ、俺と大介の反応だけは違っていた。二人とも口を開いたまま無言だった。
なぜなら、黒板の前に立っていた転入生は、昨日のキャンドルナイトで見掛けた子だったからだ。

 加賀谷がその場を鎮め女生徒に促す。
「おはようございます。今日からお世話になります長谷川知里です。よろしくお願いします。」
はっきりとした口調に生徒は息を飲みながらも拍手が起きた。

 「野獣には近づけられない」という理由で、加賀谷は知里の席を窓側の真ん中に決めた。
そう、その席は俺の前だった。大介がこっちを睨んでいたが、俺は目をそらした。

 休み時間の度に、俺の目の前は騒々しくなる。順番に自己紹介をしに来る男子を、なぜか進藤麻帆が仕切っている。
そういえば、小学校の時から麻帆はそうだった。麻帆は転校生が慣れる際の接着剤のような役割を自然とやっていた。不思議に思って一度麻帆に聞いた事がある。すると麻帆はこう答えた。
「だって寂しいに決まってるじゃん。そんなの可哀想だよ」と。
麻帆が言うと、嘘っぽくないっていうか偽善っぽくない妙な説得力がある。