テレマークを崩して【酒娘】は両腕を腰に当てて答える。
「未成年の可愛い中学生をとっ捕まえて【酒娘】って酷くない?」

怒ってるようで怒ってないのは、俺には分かる。
【酒娘】の名前は【進藤麻帆】。
【吉羽大介】と同じく、俺の小学校からの同級生で、家業が「進藤酒店」なので【酒娘】はアダ名だ。
いつもテンションが高いから、小学校の時に「実家の在庫を飲んでいる」とか言われて、男子に「酔っ払い」とか言われて泣かされていた事もあった。

ただコイツは気にしてないのか強いのか、泣いたあとでもアッケラカンとして、不思議な事に小学校ではクラスの人気者だった。

家が近かったり、家業同士の繋がりもあってか、俺達と連む事も少なくない。

信号が青に変わったので、さっきのポーズから変わっていない麻帆を置いて、俺は歩き出した。
背後で「おーい、無視かー?」と【酒娘】の声が聞こえた気もしたが、振り向かずに歩いた。

横断歩道を渡り切った所で、麻帆が気になって振り向くと、同級生の女子と話しながら渡っていたので、損した気持ちになって俺も学校へ向かった。


15分前。

麻帆は今朝も重い腰を上げて家を出た。
麻帆は学校へ行くのが面倒くさいと毎朝思う。特に休み明けの月曜日はカラダが重い。
「学校は行かなきゃいけない場所」と思うし、「行かないで何するの?」って自分に問うた所で答えは出ないので、結局ルーチンワークに乗っかって家を出る。
今朝も、母親はいつも通り送り出してくれたが、おそらく「自分の娘が学校へ行くのが嫌がっている」とは、思ってもいないだろう。麻帆は「そういう態度」を見せないようにしている。

11月中頃の今の今まで、中学生になって何か変わったわけでもなく、強いて言うなら「制服」という足元がスカスカしているモノを着なければいけない事だ。スカートを履いた事なんて、数える程しかない麻帆にとっては、この「スカスカ感」は苦痛の一つだ。

駿や大介にも、最初はメチャクチャ笑われた。
「お前、なんだそれ!」とまで言われた。

でも、結構イヤじゃなかった。自分の事を「見ててくれてる」という確信にもなったし、ムキになって「コラー!うるさーい!可愛いって言え!お前たち!」って言い返すと、尚更笑ってくれていたから、凄く嬉しかった。

(学校に行けば、そうやって楽しい事もある)

そうやって言い聞かせながら、「ヨシっ!」と一声上げて通学路を歩き出す。

(アタシって結構面倒くさいヤツなんだよねぇ)
でもそれは声には出さない。声にすると、本当に「面倒くさいオンナ」になりそうだからだ。

今日もある場所に行くまでが足取りが重い。
その場所は「国道を渡る交差点」。
そこに彼の姿が見えると、
(よし!今日も元気にいくか!)と思う。
今朝も見えた。
髪の毛ボサボサのさえない同級生。
信号が青になるのを待つお茶屋の息子に向かって麻帆は走り出した。