「ご馳走様ぁ。じゃいって来ます」

いつも通りに自宅をでた。
母親の「いってらっしゃーい」を背中に受ける。

畑で親父が手を振っている。
(あんなに遠いから、安全だと思ってるな。ブラック企業社長め!)

自宅から川中まで徒歩20分だ。
入学して最初の二ヶ月は面倒だったが、だいぶ慣れた。

いつも大介と落ち合う公園は無人。
「野球バカ」は今日も朝練らしい。

やっぱ昨日の無賃金労働のせいか、足がだるい。
だるい足でも毎日の通学路である「国道の一本裏の道」を、今朝も歩く。

50mぐらい前方にある自動販売機の横で、同じ中学校の女子がこっちに向かって手を振っているが、これもいつもの事だ。
「見て見ない振り」をしていると、全速力で俺を抜かして手を振り返す別の女子中学生。

「おはよー、ゴメンね待った?」とか朝から大声で言うな。
(なんでコイツら朝からこんなに楽しそうなんだ?)

二学期も半ばになり、最近になって気がついた。
登校する女子中学生の多くは「徒党」を組む。そして朝からペチャクチャと喋りながら、通学路を歩いている。

俺の方が歩速が速いから、イヤでもまた追いつくのだが、どうもこの女子共を抜き去るタイミングは難しい。未だに悩む瞬間がある。必死の思いで抜き去っても、国道を渡る信号でまた一緒になる顛末。
「抜き去るタイミング」を悩む自分を笑いたい。

信号で立ち止まっていると、国道川越方面から走る我が校の制服女子。
(うわ。またうるさいの一人増えた)

「おっはよ〜!茶坊主!」

スキーのジャンプの着地姿勢みたいに、両足を揃えて俺の真横にピタッとテレマークを決めながらご挨拶。ボサボサになっているショートヘアに、一瞬吹き出しそうになったが、なんとかこらえた。

(っていうか、茶坊主って)

目を閉じて、指で耳に栓をしながら答えた。
「朝からうるせーな、酒娘」