昨日は立ちっぱなしだったせいか、足が重い。結局、片付けやらなんやらで家に帰ったのは23時頃だった。親父は片付けのあと「大人の付き合い」ってヤツで、拓さん達と飲みに行った。

ただ、親父のすげー所は、前の晩にいくら遅くなっても、翌朝は茶畑の様子を見るために、必ず五時半には起きている。
俺がダラダラと顔を洗いに歩いていると、親父は既に畑から戻ってきた所だった。

「お!駿。おはよ。昨日はお疲れ様。ありがとなぁ」
嫌味なくらい朝から爽やかな親父に、忘れないうちに聞いといた。
「バイト代、出るんだよな?」

「バイト代」の「バ」を発した辺りで背を向けた親父は、そのままで答えた。
「もちろんもちろん。中学一年生に相応しいバイト代が出ますよ〜」
ゴミが入った籠を持ち上げて、そそくさと納屋へ向かいながら、
「おったのしみにぃ〜」
と付け加えた。

(あまり期待しないでおこう)



キッチンには母親が待っていた。
「あら、駿。おはよう。眠いでしょ?昨日も無賃金労働だもんねぇ」

(おいおい。「無賃金」ってなんだよ)
トーストを口に突っ込んだまま思った。

一口飲み込んだあと、キッチンに立つ「白井園の経理担当」に向かって言ってやった。
「母さん、ウチっていつからブラック企業になったんだ?」

フライパンの炒め物をかき混ぜながら、経理担当は笑って言い返した。
「へぇ、駿。難しい言葉知ってんじゃーん」
「じゃぁ、コレがギャラね?」

経理担当がよそった皿を見ると、バイエルンソーセージが、今日は5個だった。

ソーセージを箸でぶっ刺して俺は呟いた。
「やっぱ、ブラック企業だ」