キャンドルナイトの帰り道、知里は満足げに鼻歌を歌っていた。
兄の知樹はなんとなくホッとした。
今回の引越しで知樹は6回目で、知里は4回目になる。

高2の知樹は、四つ下の知里が転校するたびに、あまり馴染めていないのを知っていた。
元々、人見知りというかおとなしめの性格なのか、小学校では二年毎に転校するため、先々で「やっと慣れた頃にバイバイ」だった。

ただ一方で、知里は自宅だと結構ハッキリと物事を言う方だ。「口うるさい」と言っても過言ではない。
ただ、友達となるとどうもそうは行かないようだ。「学校でもそれぐらいお転婆を出せば良いのに」と何度か言った事はあるが、実際上手くいかなかったり、なんとなく慎重になる気持ちは分かっていた。

今回の引越しだって、中学校に入学して半年で転校。
父親の仕事の性質からして、仕方ないとは思っているが、その度に知里が心配になり、正直知樹も気を遣うから結構疲れたりする。

夜道を歩きながら、まだ名前すら知らない神社の木々を眺めて思っていた。
(今回は長く居たいな……)

そんな思いを知ってか知らずか、知里も空を見上げながら呟いた。
「お兄ちゃんさ、今回は長く居たいね」

知樹は驚きながらも、目を細めて返した。
「そうだな。ま、期待しないでおこうか。辞令っていつ出るか分からないらしいよ」

知里は兄に同意を求めたつもりだったが、高校二年生の大人の返事を耳にして、少しうつむいた。

「そういや、毎回そうだけど、明日こそ迷うなよ?」
知樹の挑発的な言葉に反発するように、兄を睨みつけて言った。
「おい!トモキ!バカにするなよ!もう中1だっつうの!」

「そっかそっか、悪りぃ悪りぃ」とおどける知樹に背を向けながらも、
(うーん、自分でもちょっと心配)
と知里は思っていた。

この兄妹がまだ知らない神社。
そこを囲むように生い茂る桜の木が、風でざわついていた。

知里は明日から、中1にして二校目の中学校に行く。

(もう入学式ってないよね?)

一瞬浮かんだ疑問の答えが、当たり前すぎるので、声に出してみた。
「あるわけなーい!」

桜の木がまたざわついた。