「おーい!」


授業が終わり、部活に行こうとするところでいきなり呼び止められた。


「ん?」


つい声を出しながら振り返る。


「高森!やっと会えた!」


その声の主は雅人だった。


飼い主に駆け寄る子犬のように、雅人はあたしのところまで走ってきた。


はぁ、と一息ついてしゃべりだす。


「朝から探してたんだけど、なかなかあえなくてさ。会えてよかった」


別に深い意味はないはずだけど、言われ慣れていないあたしには刺激が強すぎた。


思わず顔が赤くなってしまうのが自分でもはっきりとわかった。


雅人って、以外と鈍感…?


「おーい、高森?あ、そーいや高森って直紀と同じクラスだったんだよな!俺も同じがよかったー」


また雅人の大胆発言ボッパツ。


まった!よく考えたら、雅人は直紀と同じクラスになりたかっただけ!?


ああー!もう、あたし自意識過剰じゃん!


1人でボケて突っ込んで、ばかみたい!


「あはは、でもクラスは変えられないからしょうがないよね!それより、もうあたしたちがクラス同じって知ってたんだー!情報早いね!」


再び顔が赤くなるのを隠すように、ごまかしながら笑顔で話した。


「え、えっと…それは………」


すると、あたしの赤面がうつるように今度は雅人の顔が赤くなった。


あれ?私なんかいけないこと聞いたっけ?


なんかすいませんー!!


「雅人はクラス知ってたんだけどさ、高森のクラス聞いてないなと思って、クラスの仲よくなったやつに聞いたんだ。」


ごめん、勝手に聞き出すようなことして。と雅人は付け足した。


…ドキドキ


……ドキ?


なんだろう、この感じ…


「高森は、いまから部活?あ、もしかして吹奏楽?」


雅人は私の手に握られていたフルートのケースを指差して言った。


「う、うん!そうなの。この楽器、知ってる?」


楽器の経験者じゃない人は、大抵知らないと答える。


でも、なんとなくダメ元で聞いてみた。


「フルートでしょ?」


即答!?


「えっ!よくわかったね。もしかして吹部入ってた?」


いや…と、雅人は言った。


「俺の母さんフルートのプロ奏者なんだ。いろんな学校を見て回って指導してる」


へー、そんなすごいんだ…


あたしもいつか、プロになって子供達に教えてあげたい。


さて、あたしはもう答えたから、次は雅人に質問しなきゃ。


「雅人と直紀は、部活入らないの?」


部活というつながりから出た疑問だった。


雅人は珍しくうーんと考える。


「俺はサッカー好きだしサッカー部に入る。直紀は入らないか陸上かな」


サッカーやってたんだ。


正直あたしはサッカーが嫌い。


いや、スポーツ全部嫌いなんだけど、サッカーは特に。


蹴り合いしてるようにしか見えないし、ボールを目で追いかけていてもすぐにどこに行ったかわからなくなる。


しかも、頭でボールを飛ばすなんてぜったい痛いでしょ。


そんなことを考えていると、時計はもう部活開始の3分前に迫っていた。


「ヤバい!あたし行くね!バイバイ!」


「あ、バイバイ…」


いきなりの別れのあいさつで、雅人はかなり驚いていた。


バイバイくらい、ちゃんとしたかったな。


第一音楽室についたところで聞きたかったことを聞いていないことに気づいた。


完璧に雅人のペースに流されちゃったな。


まあいっか。と一息つくと、あたしは楽器を組み立て始めた。