「今、演奏したのが課題曲かな。最近やっとフルで弾けるようになったの」

正直、俺には全くわからない。とりあえず、俺には無理だということくらいしかわからなかった。

「課題曲って、これを演奏できるようになってきなさいってやつでしょ?有名人の曲?」

「まあ、音楽関係の人は知ってるって人かな。多分裕くんにはわかんないと思うよー?裕くんの知ってる人ってモーツァルトとか、ベートーヴェンとかでしょ?」

「失礼だな。ゴッホも知ってるぞ」

「……………あははははは!裕くん、ゴッホは画家だよ?それを言うならバッハじゃないの?」

「あー、そうだ。バッハだ」

「残念。バッハじゃないんだよねー。それにしてもゴッホって…思い出すだけで笑えるー!」

そんなにも人のミスが面白いのか。しかし、肝心なところで重大なミスをしてしまった。恥ずかしくてたまらない。これは話題を変えなければ。

「笑いすぎだっつーの。ほら、笑って喉渇いたろ。ジュースあるから飲めよ」

「あー、うんありがと」

どうやら話題は逸らせたらしい。それにしても、ピアノを弾いている彼女の姿は実に綺麗だった。