音楽のある日常

「ねえねえ、中学の時の思い出聞かせてよ!」

「んー…中学の時の思い出かぁ。なんかあったかな?」

「ないの?じゃあ、私から話す!いいよね?」

「おう!いいぞ!」

クラスじゃああまり話さない子だけど、俺の時だけはとても雄弁だった。趣味について話したりした事もあるけど、本当にマシンガンだった。

「あのね!私、昔からピアノをやってたの!それで、合唱発表会の時も伴奏弾いたんだよ!」

「あー、言ってたね。俺はイマイチ合唱の良さってのがわかんないんだよなー」

「もう!裕くんまでそんなこと言うー!でも、私のクラスもそんなんだったんだよね。指揮者が指揮しても、伴奏が流れてても、みんな歌わないの。音楽委員や級長が声を出しても、みんな歌わなくて、なんで私ピアノ弾いてるんだろう…って思ったんだ」

「そんな事あったんだ。俺らの中学はみんな歌ってたから、歌わない奴らがハブられてたよ」

「そうなんだ。いいなぁ…私ね、それが原因でクラスで討論して、親も巻き込んだクラス会議に発展したんだよ。合唱発表会はなんとか乗り切ったんだけど、それ以来クラスが割れちゃって。卒業式でも一緒になれなかったんだ…ねえ、裕くんは歌ってた?それとも、歌ってなかった?」

「………別に可もなく不可もなくって感じだったよ。歌ってたけど熱心に取り組んでたわけじゃない」

嘘だ。俺は歌ってなかった。合唱発表会には1度も参加した事がない。でも、今にも泣きそうな彼女の前ではそんな事言えなかった。なぜかはわからない。でも、俺の勘が今は嘘をつけって言っている気がした。

「よかった…歌ってなかったって言われたらちょっとショックだったから」