子狐ハルの恩返し

「私ね、凛桐 時雨(りんどう シグレ)っていうんだあ、今、中2」


少女はボロでふかふかの熊のぬいぐるみを僕の鼻に押し付ける。


僕はそれに思いっきり噛みつく。


このときの僕に人間の言葉は通じなかったが、少女の名が時雨ということはなんとなく理解できた。


『時雨………』


とある物語に出てくる狐はある男にイタズラし、その申し訳なさにその男に毎日、毎日、栗や農作物を家の前に置き、ひそかにその人間に恩返しをしていたらしい。


狐というもの、人間であろうが鼠であろうが恩を受けたり、申し訳なさを感じると恩返ししたくなる面倒くさい生き物で、僕も密かにそんな想いを時雨に抱いていた。


この命を助けてくれたくらいの恩を時雨に返さないと。


そしてこの想いがある出来事の元凶を生むことになる。





男は鈍感だったせいか






想いが届かず






ごんぎつねは撃ち殺されたのだ。





そして男は自分の犯してしまった行為を悔やむのだ。